当院での治療をお受けいただく前に

プレコンセプション(受胎前)ケアの重要性について

不妊治療に携わる我々からしても、やはり自然妊娠が理想であることに変わりはありません。最近は不妊治療においても プレコンセプションケア(受胎前のケア)の重要性が高まっております。 簡単に言いますと妊娠前の食生活や生活習慣を含めた体調管理のことです。 本格的な検査や治療の前にまずは妊娠しやすい身体作りから始めましょうというわけです。

 

またプレコンセプションケアは女性だけのことではありません。ご夫婦そろってのケアが重要です。むしろ男性にこそ必要と言えます。 『精液所見が悪いと死亡率が高い』というかなりショッキングな報告があります。(Eisenberg M et al, Hum Reprod 2014)

男性パートナーの併存疾患が出生に影響を与えているという報告もあります。 高血圧・糖尿病・肥満・脂質異常症・悪性腫瘍・うつ・COPD(慢性閉塞性肺疾患)等の疾患を持つ男性パートナーとの妊娠・出産に関して 早産率・低出生体重児・NICU(新生児集中治療室)への入室などのリスクが上昇するというものです。(Alex M. Kasman et al.,Fertil steril 2020)

これらの報告は精子所見が生活習慣と密接に関連していることを意味します。男性不妊疾患の分類として造精機能障害が約8割 を占めており、その半数が特発性(原因不明)となっており生活習慣に起因すると考えられています。要因は様々ですが、 酸化ストレスにより精子のDNAに損傷が起こることが問題となるようです。

喫煙が悪いのは間違いありません。喫煙と精子数低下・運動率低下・正常形態率低下は全て有意な関係があり喫煙数が多いほど影響を受けます。

アルコール に関してはヒトでの研究は比較的少ないのですが1日あたり2単位以上の飲酒は精子の形態に異常をきたすという報告があります。(ビール500mlで2.5単位、ワイン175mlで3単位)また母親ではなく父親の大量飲酒の影響により児の頭囲減少と小頭蓋のリスク上昇が認められたという報告もあります。(Zuccolo L, Sci Rep,2016) 

父方の肥満は、配偶子を介して子孫における代謝障害と肥満のリスクとなりますが、食事と運動はこれらのリスクを低下させます。(Huypens P,Nat Ganet,2016;McPherson NO,Am J Physiol Endocrinol Metab,2015) 

亜鉛欠乏は造精機能に悪影響を及ぼすことは周知ですが、亜鉛単独より葉酸を併用した方が経過が良好であったとの報告も散見されます。

 

不妊検査や治療はもちろん大事ですが、これらのことをしっかり継続することで治療効果も上がることが充分に期待できると思います。 チェックシートを作成して半年後に改善状態を確認することで本人の意識が向上し、検査所見も改善したとの報告もあります。 男性用と女性用のプレコンセプションケア項目のチェックシートをお示ししますので参考にして下さい。

 

プレコンセプションケア