体外受精、顕微受精などの生殖補助医療(ART)

保険適用のART(生殖補助医療)
高濃度ヒアルロン酸含有培養液

 

保険適用外のART(生殖補助医療)

 

一般不妊治療で妊娠できない場合、あるいは卵管の機能異常や精子に重大な障害がある場合には、早い段階での体外受精や生殖補助医療を行ないます。(⇒詳細については ART治療ガイド をご参照ください)

 

  • 一般不妊治療と生殖補助医療(ART)について
    今までの検査や治療方法は全て一般不妊治療であり、これらは基本的には自然妊娠を期待する方法で妊娠に関しての全てのステップが女性の体内で進行しています。そしてこれらの一般不妊治療を2年間行うことにより患者さんの約半数の方は妊娠されると報告されています。これらの治療で妊娠できない場合、あるいは卵管の機能異常や精子に重大な障害がある場合などは、早い段階で生殖補助医療が必要となります。これは生殖過程の一部を体外に移し障害部分をカバーすることにより妊娠を可能にする方法と言えます。

 

  • 体外受精を行うことの意義
    一般不妊治療で行うことは、排卵した卵子のもとへ精子を届けてあげることまでであり、それより先の過程は全て体内で起こっているため我々には確認する方法がありません。本当に卵子と精子は出会っているのか、受精しているのか、受精卵は分割しているのか、受精した卵子は子宮まで移送されているのか、着床しているのかなどは全く分からないのです。即ち、一般不妊治療とは受精のチャンスを増やすことによって妊娠の可能性を高める方法と言い換えることができます。タイミング指導も人工授精も排卵誘発剤も、すべてその考え方に基づいて行うものです。これに対して、体外受精・胚移植法はもう少し直接的な方法と言えます。体外に取り出された卵子は確実に精子と出会うことができます。また体外で受精、分割した卵は子宮内に戻されますので、あとは着床するかどうかだけが問題となります。同時にこの方法は良質な卵子を採取できるかどうか、受精をするかどうかなど、今までの検査では確認できなかった重要な情報を得られるという点で、治療のみではなく診断的な意義も高いと言えます。周期あたりの妊娠率は約30%ですが、一般不妊治療の周期当たりの妊娠率が10%前後であることと、基本的に一般不妊治療で妊娠しなかった方が対象となっていることを考慮すると、実は相当に高い妊娠率であると言えます。ヒトでの臨床応用は1978年に成功例が出て以来、2015年のデータでは日本だけで年間5万人以上の赤ちゃんが誕生しています。総数ではすでに50万人に達しておりますが、これまでの多くの調査で出生児の異常率は自然妊娠の場合と差がないことが報告されております。

 

体外受精-胚移植の流れ

 

 

 

 

■顕微授精

精子の状態が極端に悪い場合や、通常の体外授精で受精しない場合、顕微鏡下で特殊なピペットで一匹の精子を卵細胞質内に注入して授精させる方法です。現在では卵細胞質内精子注入法(ICSI)が一般的です。

【PICSIとICSI】
PICSI(Physiological intracytoplasmic sperm injection) はHA-ICSIとも呼ばれますが、精子を前もってヒアルロン酸で処理しICSIを行う方法です。
ヒアルロン酸は卵子における透明体の主成分で、卵子を取り巻く卵丘細胞の表面はヒアルロン酸に覆われています。精子は機能的に成熟すると卵子細胞膜上のヒアルロン酸に付着するレセプターが出現します。
一方、未熟な精子にはこのレセプターが出現しません。またこれまでの研究から精子の成熟度が高いほど染色体異常率が低く、DNAの断片化が少ないことが明らかになっています。本来の受精過程では成熟精子のみが卵子の透明体に付着・貫通して受精が起こります。これによってDNAの状態が良好で染色体異常の少ない精子が選別されています。PICSIはこの成熟精子のみが持つヒアルロン酸に付着する特性を利用し成熟精子を選別しICSIを行う方法です。

LANCETという著名な学術雑誌(2019.2)にPICSI群(1381例)とICSI群(1371例)について臨床的妊娠率・出産率・流産率を比較した報告があります。流産率についてPICSI群では4.3%、ICSI群では7.0%と有意差が報告されております(P=0.003)。このことよりPICSIは従来のICSIと比較して流産リスクを減少させることができるといえます。

当院ではこの方法を採用してふりかけ法や顕微授精の際の精子の選別や濃縮を行っております。

 

顕微授精図

 

■胚培養

当院では大事な受精卵の培養は全例 タイムラプス培養器 にて培養しております。
またご希望により GM-CSF含有培養液 を使用することもできます。

 

■胚移植

受精後、胚の分割が順調にすすめば胚移植を行います。胚移植には採卵後2~3日目(4~8分割)に行う初期胚移植と5~6日目に行う胚盤胞移植があります。
また、二回に分けて胚移植をおこなう二段階胚移植や採卵の際の培養液を凍結保存しておいて融解胚移植の前に子宮内に注入するSEET法などがあります。

胚移植図

 

■受精卵凍結・融解胚移植

たくさんの受精卵が得られた場合、これを胚移植せずにこれを凍結保存しておき、採卵周期以外に胚移植する方法です。

胚凍結保存

 

 

■孵化補助

受精卵の透明体が厚く硬くなって、細胞質が透明帯を破って脱出できずに着床できないことがあります。このようなときに、レーザーにて 透明帯を薄くしたり開孔させたりして孵化を助ける方法です。

孵化補助

レーザーで薄くした部分