医療法人授幸会 久永婦人科クリニック
 
           
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免疫学的異常

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ヒトの身体には自分自身以外のものが体内に入ると、これを異物と認識し排除しようとする働きがありこれを免疫と呼びます。細菌やウイルス感染による発熱や臓器移植の際の拒絶反応などもこの免疫応答によるものです。妊娠とはそもそも半分は男性由来の遺伝子をもつ受精卵が着床します。これは免疫学的には半同種移植片(semi-allograft)といわれ、本来は拒絶反応により排除されるはずなのですが、受精卵は攻撃されることなく出産まで子宮内で発育します。これを免疫学的寛容と呼びます。近年、良好胚を複数回移植しても着床が成立しない反復着床不全の方において免疫学的寛容に異常をきたしている症例があることが分かってきました。その1つがヘルパーT細胞を介した免疫応答です。正常な妊娠では胎児や胎盤を攻撃する1型ヘルパーT細胞(Th1細胞)が減少し、2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)が優位となります。従ってTh1/Th2比が高くなるほど受精卵を攻撃して着床ができない状態になると考えられます。

血液検査でTh1/Th2比に異常が認められた場合に、免疫細胞の機能を抑制するタクロリムスを用いて母体の拒絶反応を抑制して着床・妊娠の維持を可能にするためタクロリムスという免疫抑制剤を使用します。タクロリムスはカルシニューリン(脱リン酸化酵素)阻害剤といわれるマクロライド系抗生物質の一種で、1984年に茨城県つくば市の土壌で分離された放線菌というバクテリアの代謝産物として発見されました。免疫調整剤の一種であり、わが国では1993 年に肝移植における拒絶反応の抑制に用いられ、以降腎臓・心臓・肺・膵臓などの臓器移植後の拒絶反応を抑えるのに用いられてきました。 近年では、関節リウマチ、重症筋無力症、ループス腎炎などの自己免疫性疾患の治療薬としても使用されています。

副作用としては、ふるえなどの中枢神経症状(頭痛、振戦、痙攣、不眠、幻覚など)、ほてり、高血糖、 腎障害、心毒性(心不全・不整脈など)、感染症などがあります。副作用が出ても多くの場合は投与量の減量、中止などで軽快します。また、着床障害に使用する量(1〜3mg/日)では感染症が増えることはないと報告されています。
薬剤による妊娠についての安全性については、FDA(アメリカ食品医薬品局)による危険度分類では有益性が危険性を上回る場合に注意して投与するレベルCに分類されています。また国内でも2018年より有益性投与とされており、タクロリムス使用終了後に妊娠した場合は胎児に影響はないとされています。 一方、またTh1の上昇は子癇発作や常位胎盤早期剥離との関連性も報告されています。
グレープフルーツなどとは一緒に服用しないでください。(グレープフルーツなどの柑橘類に含まれるフラノクマリン誘導体は小腸上皮細胞での代謝を阻害するため、薬効の増大や副作用リスクの増加につながります)

【参考文献】
・Nakagawa K et al. Am J Reprod Immunol.2015
・Skorpen G et al. Ann Rheum Dis.2016

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